繊細、美麗。通好みの味。

キス2 (1)

なんて涼しげな容姿でしょう。初夏の爽やかさをそのまま体に現したような清楚さ。“海の鮎”と昔の人がいったのも、さもありなんと想えます。それにまた、名前の響きがステキです。きす、キス・・・。清楚な姿と響き美しいこのキスの、漢字表記を選びなさい。

①鱚
②鯒
③鯛
④鱧 

解答:①鱚(きす)

解説:
ことわざに「六月のきすは絵に描いてでも食え」とあるように、6月、きすはまさに旬の盛りを迎える。外観にふさわしい淡泊な味。でも、正直いって、子どものころは塩焼きのキスゴ*が食卓にのぼると、小骨を取るのがめんどうだし、いくら食べても満腹にならないし、ため息をついたもの・・・。ところが、長じて江戸前の天ぷらで、握り鮨で食べたときの感動といったら、これがあのキスゴか、と驚いた記憶が鮮明に残る。“海の鮎”といわれるキスの繊細な味は、大人になってこそ愉しめるものかもしれない。
味だけではなく、キスはもともとナイーブな魚。鮮度もおちやすく、環境にも弱い。すみかは内湾や浅い海のきれいな砂地。警戒心が強いため、並みの動きなどを敏感に察知しながら、数匹ずつ群れながらゆっくり泳いでいる。

キス115
*キスゴ:広く西日本の地方などでは、本来の魚名であるキスゴと呼んでいる。現在一般に呼ばれる「きす」は「ご」を省略したもの。語源は諸説あるが、性質が素直で飾り気のないことを表す「生直(きす)」に魚名語尾「ご」がついたという説が有力。

昔から釣り魚としても人気抜群で、6月になると、砂浜には投げ竿がずらりと並ぶ。簡単に釣れるため、午前中だけで百匹以上釣ったと自慢する太公望も多いとか。
ふだん、私たちがお目にかかっているのはシロギス。もう一種、アオギスという東京湾などに生息していた種類があり、かつては江戸前の名物だった。しかし、水質汚染などのため、和歌山県より東では絶滅してしまう。九州・四国でも絶滅危惧種のひとつに数えられている。シロギスも漁獲高が減り、料亭向きの高級魚になりつつある。

きす握り161

ジメジメとした梅雨に入ったころがピークで、夏いっぱいというところ。涼しげな砂の色、ほのかに昆布の香りをまとったさっぱりとした味は、梅雨時のうっとうしさを忘れさせてくれる。

鮮度がよいと刺身が美味。たんぱく質、ビタミンB、リン、鉄を含み、脂質は1%以下。天ぷらにこれほど合う魚もない。椀だねとしても味は最高。焼けば、だしもたっぷり出る。

キス天pl531

尻尾のついた一枚おろしのきす天。秋のハゼとならぶ江戸前天ぷら白身の代表的な天だね。

「犬公方」で知られる五代将軍、徳川綱吉は「おめでたい魚」として、毎朝必ず、焼いたものを二尾、煮たものを二尾、計四尾食べたそうだが(樋口清之『食べる日本史』)、これはいくらなんでも・・・。
②鯒(こち)、③鯛(たい)、④鱧(はも)。

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尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

投稿者: 尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

平成21年、一般社団法人 日本さかな検定協会を立ち上げる。自ら日本各地をめぐり、検定の副読本執筆まで手がける魚食文化発信のエキスパート。 日本さかな検定(愛称:ととけん)とは、近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組み。 2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年には全国12会場まで拡大。小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出。今年は6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡ほかの各会場で開催予定。