師走の千両役者

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昔は大晦日の日暮れが一年の終わりとされ、新たな年の夕食から元日にかけて家族そろって食する魚を「年取り魚」と呼んでいました。日本各地に年取り魚は数あれど、東日本の代表といえば新巻でおなじみの塩サケでしょう。西日本を代表する年取り魚を選びなさい。
①鮭
②鰆
③鱸
④鰤

                   
【解答】
④鰤(ぶり)

【解説】
冬至ともなると師走も大詰め。もう頭のなかは正月のごちそうのことでいっぱい。その立役者をつとめる大物となれば、正月魚の横綱、まるまる太った天然のぶりにつきる。東が鮭なら、西は鰤。西日本では「年取りぶり」といわれ、正月料理に欠かせない。名の由来は「あぶら」の多い魚だから「ぶり」。あるいは、「年経りたる魚」の「ふり」によるという説もある。師走にもっとも味がよくなるから漢字では鰤。中国語で「魚師」とは「老魚」「大魚」のことを指すので、これに由来するとも。

ご存知のように、大きくなるにつれ名が変わる、おめでたい出世魚。で、幼名は? これがスラスラ言える人がいたらエライ。東京近辺では、わかし⇒いなだ⇒わらさ⇒ぶり。関西では、つばす⇒はまち⇒めじろ⇒ぶり。全国各地、呼び名は120もあるそうだが、どこでも1㍍以上になると「ぶり」と呼んでいる。
もちろん最高においしいのは、真冬の「寒ぶり」。なかでも日本海、そのなかでも富山県氷見(ひみ)漁港に、定置網漁で水揚げされる寒ぶりは日本一とされる。11月も末になると、富山湾には雷が鳴り響き、寒風が吹き荒れる。これがいわゆる「ぶりおこし」。ぶりが岸に近づいた報せだ。海が荒れれば荒れるほど豊漁に。体長1㍍、10㌔以上の大物が何百匹と海面に勢いよく体をたたきつける。

提供:射水市
提供:射水市

富山湾にのぞむ射水(いみず)市に平安時代から伝わる正月行事「鰤分け神事」。元日の朝、加茂神社の拝殿に塩ぶり6尾が供えられ宮司の祝詞(のりと)とともに、一尾ずつ高々と持ち上げて塩ぶりを奉納した氏子(うじこ)の地区名を読み上げる。神事の後、塩ぶりを切り分け、奉納した地区のすべての世帯に配られる。

でも、かつては何万匹と獲れたのに、近頃は減少傾向に。とくに昨シーズンは、記録的な不漁で品不足、高値となった。ぶりを食べないと正月がこないとお嘆きの諸兄、ご安心あれ。ことしは12月に入り豊漁の報せが届き、しかも魚体が大きく脂がのっているそうな。氷見でも、寒ぶり漁のシーズン入りを告げる「ひみ寒ぶり宣言」が2年ぶりに、早々に出た。
正月料理にはやっぱり、刺身。それもいつもより心持ち厚めに切った刺身にかぎる、という御仁が多そうだが、実は加熱調理をしたほうがぶり本来のうまみを堪能できる。照り焼き、塩焼き、みそ漬け、とりわけ照り焼きは、ぶりの定番中の定番といった料理で、身が締まりつつ甘辛いタレと絡み合う脂が食欲をそそる。

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提供:ヤマキ株式会社

塩焼きは塩だけのシンプルな味付けだけに、魚の風味が楽しめる。粗塩を使って焼き、皮はパリッと、身はふんわりとしたぶりには大根おろしとレモンを添えたい。みそ漬けは、西京みそをはじめ、好みのみそにみりんを加え漬けたものを焼く。酒粕に漬けた粕漬けもオススメだ。ぶりとくれば、忘れてならないのがぶり大根。もとは能登の漁師料理と伝わるこの料理の醍醐味は、ぶりのうまみがたっぷりとしみ込んだ大根。寒い冬には欠かせない。

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提供:ヤマキ株式会社

古来、多くの人が往来した街道はまた、山間部へ魚介を運んだ魚の道でもあった。現在の国道41号線にあたる飛騨(ひだ)街道は別名「ぶり街道」とよばれる。江戸時代、富山湾でとれた寒ぶりは、塩漬けにされて飛騨高山へと運ばれた。さらに野麦峠を越えて信州・松本や伊那地方にまで運ばれ、正月魚としてハレの日に食べる大切な魚であった。年内に間に合わせるために、歩荷(ぼっか)とよばれる行商人が人の重さほどもあるぶりを背負い、夜を徹して雪の峠を越えていったのである。

尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

投稿者: 尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

平成21年、一般社団法人 日本さかな検定協会を立ち上げる。自ら日本各地をめぐり、検定の副読本執筆まで手がける魚食文化発信のエキスパート。 日本さかな検定(愛称:ととけん)とは、近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組み。 2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年には全国12会場まで拡大。小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出。今年は6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡ほかの各会場で開催予定。