シーズナリストインタビュー  第1回 尾山雅一さん

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「季節のあるきかた」で、それぞれの季節の楽しみ方を発信している、シーズナリストのみなさん。彼らは一体どんな人なのでしょう。

普段、どのように季節を感じる生活を送っているのでしょうか。どんな思いで記事を書き、それを読んだ私たちに何を感じ取ってもらいたいのか、そんな話を聞いてみたくて、シーズナリストインタビューを始めます。第一回目の今回は、『ととけん さかな歳時記』を綴る、「日本さかな検定(愛称:ととけん)」の代表理事、尾山雅一さんにお話を聞きました。

寒い冬には、やっぱりふるさとの魚が一番

『さかな歳時記』では、魚を通して、移りゆく季節や自然を楽しむ暮らしについて、クイズ形式で発信している尾山さん。24の節気のそれぞれに、思い入れやこだわりを持っていることは承知の上で、敢えてひとつ、好きな節気はいつですかと聞いてみました。少し悩んだあとで、彼が出した答えは、冬至。年の瀬から新年に移り変わり、寒さも厳しくなってくる、そんな節気を選んだのは一体どうしてなのでしょう。
「やっぱりこの季節って、ふるさとなんですよね。私は山口県の瀬戸内出身ですが、年末年始は、田舎の家はいろいろあるもので、必ず帰るんです。その時季というと、やっぱり鍋物ですよね。かわはぎという魚、向こうでは“めんぼ”っていうんですけれど、それを鍋に入れて、肝は別にとっておいて、肝醤油で溶いて。鍋って、ひとりで食べるものじゃないですから。家族みんなで、湯気がもくもくしているところでね」
寒い冬の夜、家族みんなで鍋を囲んで味わうのは、旬を迎えた地元の新鮮な魚。なんだかとても贅沢で、ぬくもりのある冬の食卓が目に浮かんでくるようです。
「でも向こうにいる時は、それが贅沢だなんて、そんなこと思いもしませんでした。東京に出てきてからです、そう思うようになったのは。どうして東京って、新鮮な魚を食べられないんだろうって…」

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消えかかっている、かつての食文化

新鮮な魚だけではなく、かつて人々が大切にしてきた、季節や旬を味わうということも、いまの日本では、だんだんと失われてきています。町から魚屋さんが消えたり、家族の形が変わって祖父母と暮らす人が減ったり。それはつまり、魚のおいしい時季や、おすすめの料理法、こよみに組み込まれた行事食の意味を、私たちに教えてくれた存在が消えてしまったことを意味すると、尾山さんはいいます。
「日本って、地方に行くと、その土地その土地のお寿司とか郷土料理がありますよね。例えば、関西地方のあの蒸し暑い夏を想像してみてください。日本人は、食べるもので涼を感じる。鱧(はも)をね、いわゆる鱧ちりにして、梅肉を添えて、さっぱりした味で食べますよね。そういう文化もあれば、青森なんかで吹雪の冬の夜、真鱈のアラを全部味噌煮込みにして、じゃっぱ汁を食べて、心身ともに温まる、そういうものもあるんです」
こうした地方ごとの、生活の知恵にも似た食文化がかつてはもっとあったはずなのに、それがいま、なくなってきています。
「日本が、食の世界遺産になった国が、そういうことでいいのでしょうか。海外からも毎年たくさんの方が来られて、いま、彼らの来日する動機のナンバー1は、『和食を食べたい』ということです。やっぱり魚って和食の中心にいるのに、お迎えする我々が魚の話が全然できないって、どうなんでしょう」

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季節の魚を味わう、その楽しさを伝えたい
 
「だからここ、『さかな歳時記』では、こういう機会じゃないと伝えられない魚の話も、実はしたいと思っているんです。東京では食べないけれど、ある地方では当たり前っていう魚とか、そういうものも紹介したいですね」これを読んで、この魚食べてみたいなぁとか、いっぺん地元に行ってみたいとか、そういうふうに思ってもらうだけでも嬉しいと、尾山さんは続けます。
「東京からなかなか出られないのであれば、江戸前寿司を春夏秋冬で食べ比べてみたり、地魚だけで今日は握ってくださいと頼んでみたり、そんな楽しみ方だってあるんですよ。本当に、日本って季節と旬を味わう魚がまだまだあるんだから、それをもっと楽しみませんか、ということを伝えたいです」 
日本にいるのに、そうした楽しみに気づけていないのだとしたら、それはやはり、とてももったいないことかもしれません。「ととけん」がそれらに興味を持つ人の役に立ち、魚のことを伝える伝道師、語り部となる人が増えれば。尾山さんは、最後にそう付け加えました。
 

魚食文化を広めることを目的にはじまった「ととけん」。これまで最年少5歳、最年長89歳と幅広い年代が受験しており、“思わず誰かに話してみたくなる”問題が出題されるのも特長のひとつです。累計18,000以上の方が受験しており、季節と魚の楽しみ方を伝える伝道師たちを、いままさに増やしているところです。

投稿者: 吉田 真那 (季節のあるきかた編集部)

茨城県出身。幼いころから本や雑誌を読むことが好きで、憧れだった出版業界に入る。現在は、美容や食関連の書籍・広告の編集に携わり、日々奔走中。とくに興味のある分野は、衣・食・住、海外文化、そして人。「季節のあるきかた」では、等身大の視点から情報を発信していく。