冬の足音がすぐそこに聞こえるこの時季、牡蠣(かき)が冷たい海のなかでふっくらと育っています。
独特の旨みがたまらない海の味覚、カキ。あなたのお好みは、レモンを搾った生牡蠣、芳しい香りの焼き牡蠣、それとも食感がたまらない牡蠣フライでしょうか。
日本各地に産地があるなか、‘カキのあるところ’を表す地名の由来をもつ北海道の産地を選びなさい。
①厚岸
②松島
③的矢
④安芸
【解答】①厚岸(あっけし)
【解説】
根室と釧路のほぼ中間にある厚岸は、江戸時代からニシンやサケ漁が盛んでアイヌ民族の中心都市だった。“アッケシ”はアイヌの言葉で‘カキのあるところ’という意味だ。最近は外国人観光客にも知られるようになり、彼らのお目当ては地元産カキ。
ぷりぷりに太りコクがあり、まろやかなうまみが凝縮されている。駅の近くには道の駅「厚岸味覚ターミナル・コンキリエ」がある。イタリア語で「貝の形をした食べ物」の意。館内には今春、おしゃれなオイスターバーもオープンした。
いまや全国各地に広がるカキの養殖産地。1673年ごろ、安芸国草津(現在の広島市西区)の小林五郎左衛門という漁師が、海中にひびを建てる養殖法を発見。以来、広島は日本一の産地に。広島の漁師たちは、採れた牡蠣を船に積んで大阪へ。幕府から独占営業権を得て、川に屋形船を浮かべて、牡蠣の販売とともに牡蠣料理を出すようになった。道頓堀や淀屋橋に浮かぶ牡蠣舟は戦前までは大阪名物だった。
ふっくら、プリプリした身と、とろりとした食感は日本人のみならず海外の偉人たちを魅了してきた。かのカエサル(シ-ザー)のイギリス遠征はカキを求めるためだったという説もあり、ナポレオンも牡蠣を常食していたといわれ、鉄血宰相ビスマルクは175個(!)を一度に平らげたという。バルザックやヘミングウェイら文豪も恐ろしく牡蠣好きだったそうだ。
魚介類の生食を敬遠する欧米人もこのカキだけは例外で、冬のパリの名物料理もレモンを添えた生ガキ。レストランではみんながオードブルに注文している。
魚介の生食の魅力を世界中に広めている日本だが、かつてはカキといえば熱を通したものに限られていた。近代になって洋風文化の移入とともにカキの生食が日本にも伝わったという。
欧州一のカキ生産を誇るフランス。その養殖中心地は世界遺産モン・サン・ミシェルで有名なノルマンディ地方だ。英仏海峡に挟まれたこの地域では、潮の満ち引きが激しく、ここのカキは一日に2回、空気にふれたり海に沈んだりを繰り返す。それに合わせてカキは殻を開けたり閉じたりするため、芳醇な身ができあがるといわれる。
1960~70年代にかけ、このノルマンディでカキの病気が蔓延し、壊滅状態に瀕した。廃業寸前に追い込まれた養殖業者たちは病気に強いカキを求め世界中を探し求め、たどり着いたのが宮城・松島湾で養殖されていた生命力の強い種ガキだった。いまではフランスで流通しているカキの9割が松島のカキの子孫なのだ。
それから50年、今度は宮城県のカキが壊滅状態に陥る事態となる。
2011年3月11日、東日本大震災。
宮城のカキ生産者たちは津波によってほとんどの種ガキを失い震災直後、彼らのほとんどはその養殖を諦めかけていた。
その時に立ち上がったのがフランスのカキ漁師たち。世界中から救援の手が差し伸べられるなか、フランスは三陸一帯のカキ生産者に向けて、必要な資材や義援金を支援した。
そして種ガキは日本一の産地、広島からの供給をうけ、三陸産のカキは復興への道を歩み始めている。
旬を迎え、丸々と太ったカキを網で焼き、心ゆくまで味わいつくす今では全国で見られる牡蠣焼き小屋は、すっかり冬の風物詩に。
焼くときはまず、殻が平らなほうを下にして、一度返して汁気があふれてきたら食べ頃のサイン。そのままで、あるいはレモンを搾ったり、醤油をかけても。プリッとした食感の中から、海の濃厚な旨みと風味がほとばしる。火を通しすぎぬことがポイントだとか。
かくも人々を魅了し、世界を絆で結ぶ存在でもあるカキは「海のミルク」と呼ばれるほど栄養豊富な海の幸でもある。
たんぱく質、グリコーゲン、ミネラル、ビタミン各種などを豊富に含んでいるうえ、低カロリー。消化もよく、血中コレステロールを下げるタウリンも多く、まさに冬の優等生。かのクセものたちのような大食いはいかがなものかと思うが、たっぷり食べると、冬場の体力がつくこと、まちがいなし。
店頭にならぶむき身のマガキには、「生食用」と「加熱用」のラベルが貼られている。新鮮な方が「生食用」で、少し日が経った方が「加熱用」と思いがちだが、実は出荷前の作業で一定時間紫外線殺菌した海水で殺菌したものが「生食用」。殺菌せず、水揚げしてすぐに出荷したものが「加熱用」。決して加熱用のものの鮮度が悪いということはなく、むしろ栄養も旨みも多い。加熱するときは加熱用を選びたい。
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