しんしんと降り積もる雪の夜には、ことさらこの魚のちり鍋が恋しくなります。卵が重宝される日本ではメスが好まれがちですが、ことこの魚に限ってはオスのほうが値も腹も張ります。この魚を選びなさい。
①鮫
②鯛
③鱈
④鮪
【解答】
③鱈(たら)
【解説】
なんて大きな口と腹か。さすが魚界きっての食いしん坊、たら。なんでも食べたがるマダラの貪欲さにちなんで、大食いすることを「たら腹食う」とはよく言ったものだ。大食漢で雑食性のうえ、ものぐさ。体を動かさず、あごの下のひげに触れたえさを一気に飲み込む。ところがマダラは外見よりはスマート、これほど身に脂肪が少ない魚はない。脂肪含有率もわずか0.4%。むしろ、あなたのダイエットに向く魚といえる。
メスに比べ、オスはおよそ1.5倍も高く、腹も張っている。ぼってりした腹に白子(精巣)がぎっしり詰まっているから。とろりとコクがあってうまいこの白子は、菊子とも雲子とも呼ばれ、新鮮なら生のままぽん酢でいける。
ちなみにマダラの卵巣も大きく、煮付けにすると美味。あのピンク色のたらこは、スケソウダラの卵巣だ。
とれたてのマダラは昆布じめにして、刺身にすると絶品。しかし鮮度が落ちやすいため、古今東西、塩漬けや干しだらにして保存されてきた。棒だらと海老いもを甘く炊き込んだ「いも棒」は京都の正月には欠かせない。
毎年、暮になると、山口のわが実家でも棒だらを炊く匂いに満ちた。岩のように硬いたらを何度も水に浸して戻し、さらに終日、大きな鍋でコトコト煮るのだ。
西洋でも好まれ、フランス料理では干しだらは「モリュ」と呼ばれ、地中海沿岸ニームの名物料理。スペインでも、塩だらのオリーブオイル煮「ピルピル」がバスク地方の郷土料理として親しまれる。ヨーロッパの人たちのたら好みは、かつて紛争も引き起こしたほど。タラがよくとれる海域の漁業権をめぐって1950~70年代、英国とアイスランドの間で「Cod War(タラ戦争)」が起きた。
しかし、なんといっても、たらは漢字で記すのが美しい。雪の舞う季節に旬を迎えるから「鱈」とした、昔の人のセンスの良さには脱帽する。
日本人となじみは意外に浅く、室町時代に始めて文献に現れる。江戸時代には津軽の塩鱈は将軍家に献上されている。津軽ではじゃっぱ汁。山形ではどんがら汁。秋田のだだみ汁。寒い夜、フーフーいって食べる鍋は、体を芯から温めてくれる。昆布と相性がよく、身のエキスが汁に溶けだすので、北国では「鱈ちりと雪道はあとほどいい」という。
たらのちり鍋 提供:ヤマキ株式会社
①鮫はサメ、②鯛はタイ、④鮪はマグロ。