包丁が跳ね返される越冬鯛

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重量3.3キロの天然真鯛が青森から届いた。瞼にブルーのラインを煌めかせた「まな板の上の鯛」の存在感に圧倒され、ゴクリと唾をのみこむ。

鯛はめでたいお魚。お祝いの席には年中欠かせない行事食の筆頭食材となっているけれど、鯛には鯛のライフサイクルがあるのだから、もちろん鯛の旬もしっかりあるわけだ。真鯛は、春に卵を持ち、5~6月に産卵する。夏場は身が細って、秋から冬にかけて身を肥やし越冬し、また子をもっていく。
産卵するために、ちょうど桜が咲くころに接岸してくる習性があって、「桜鯛」、「のっこみの鯛」と呼ばれる。新生活がはじまるこの時期を、鯛の旬だと長らく思ってきた。もちろん「桜鯛」をいただける春も鯛の旬には違いないのだが、実はいまが隠れた旬であることを、3㌔超の鯛が教えてくれた。
どこの鯛でも同じというわけではないようだが、青森湾の鯛は冬に向かうこれからの時期に、旺盛な食欲で海老からイカから、果てはイソギンチャクまで食べまくって身を肥やすのだそうだ。太く育った鯛は、冬支度を調えて、別名「越冬鯛」ともいわれる。
この越冬鯛は、冬支度を調えると海の深場にもぐっていく。そのため、釣り師は冬支度を調えて、よし、これから潜るぞ、という鯛が深場へ行ってしまう前に勝負をかけなくてはならない。旬はわずか1か月だ。

我が家に届いたさきほどの鯛は、まさに身支度を調えおわった「越冬鯛」だったのだ。身が張り切った越冬鯛の皮はつよく、包丁が跳ね返されるほどだ。格闘の末に、半身をお刺身としゃぶしゃぶにする。ブリッとした身にはまだいのちの躍動を感じるほどだが、味はよく練られて甘い。そろそろ年越しの準備が気になってくるこの頃、越冬鯛にならってしっかりと年越しの冬支度をはじめなくては。

冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

投稿者: 冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

料理研究家・国際薬膳師 栃木県生まれ。真言宗の寺に生まれ、幼少時より行事料理、郷土料理に興味を持つ。古典レシピ、薬膳などを研究しつつ、現代人の食卓事情に合わせた料理法を研究テーマにしている。地域食材にも造詣が深く、レシピや商品開発も数多く手がける。「季節のあるきかた」では、日々の暮らしを綴りながら、折々の美味しさを発信していく。