紫式部の大好物は、万能選手

3級カラーQ50イワシ大群

ご覧の大群は、私たちの食生活に欠かせない魚であると同時に、「海の米」とも「海の牧草」ともいわれ、世界中の海の生態系を支えるタンパク資源でもあります。
初夏から秋にかけて脂がのっておいしくなるこの魚を選びなさい。

①マアジ
②マイワシ
③マサバ
④マダイ 

【解答】②マイワシ

いわし

【解説】胴に輝く黒い斑点。頭でっかちの肥満体。私たちにとってもっとも身近な魚、いわしがこの時季鮮魚売り場を賑わしている。
ふつう、いわしといえば、このマイワシ。料理はもちろん、しらす、飼料、油・・・なんでもござれの万能選手。斑点にちなんで「七ツ星」とも呼ばれている。ほかに、私たちにとってなじみ深いのは、めざしやごまめに向くカタクチイワシに、丸干しに向くウルメイワシ。きびなごやにしんも実はいわしの仲間だ。種類によって獲れる時期が異なるが、マイワシは脂がのる初夏から秋にかけて美味となる。
このいわし、漢字にすると「鰯」。水揚げするとすぐ死んでしまうから、あるいは他の魚の餌食になるから、この名がついたといわれている。
太古の昔から食料にされてきたが、大量に獲れるため、古代から下賤な魚とみられ、上流人は「いやし」なんて呼びながら、こっそり食べたとか。あの紫式部が、夫・藤原宣孝の留守中に焼いて食べていたところを見つかり、なじられると、「日の本に はやらせ給ふ 岩清水 まいらぬ人は あらじとぞ思ふ」(日本人であれば岩清水八幡に詣でない人はいないように、いわしを食べない人もいない)とやり返したのは有名な話。
近年の健康食ブームで、動脈硬化を防ぐエイコサペンタエン酸(EPA)や頭脳の働きをよくするドコサヘキサエン酸(DHA)を豊富に含むこの万能選手の株も上がったかと思うと、漁獲量は1988年をピークにして激減。年間400万トンから、96年には22万トン、2005年には3万トンを切ってしまった。「幻の高級魚になるのでは」とささやかれたが、近年、復活の兆しをみせている。ことに今年は豊漁で、お値段でも万能選手ぶりを発揮している。

尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

投稿者: 尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

平成21年、一般社団法人 日本さかな検定協会を立ち上げる。自ら日本各地をめぐり、検定の副読本執筆まで手がける魚食文化発信のエキスパート。 日本さかな検定(愛称:ととけん)とは、近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組み。 2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年には全国12会場まで拡大。小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出。今年は6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡ほかの各会場で開催予定。