素麺といえば、暑さをしのぐ夏場の食べ物。あのつるつるとした冷やっこいのど越しは、猛暑にあっても食欲を誘うものだが、実は、冷たくしてたべるようになったのは、江戸中期のころからだったという。
それまでは、うどんのように煮て温かくした煮麺として食べていたのだ。そもそも素麺の歴史は、うどんや蕎麦よりもさらに古くて、平安時代の文献にでてくる「索餅」(さくべい)というものだというから、1000年の時間を繋いできた素麺の食べ方は、今よりもっとバリエーション豊かだったに違いない。
『豆腐百珍』は、豆腐料理ばかり集めた江戸中期の料理本のベストセラーとして名高いが、その中に、美味しそうな素麺料理がある。料理名は、豆腐麺(とうふめん)。その名から、豆腐を細く切って麺仕立てにしたものかとおもいきや、素麺をメインに使ったお料理で、豆腐と素麺を油で炒め合わせて青菜をいれてつくる。
感心するのはその栄養バランスのよさだ。大豆のタンパク質、小麦の炭水化物、油脂に、青菜の繊維質とビタミン、ミネラル。1782年、10代将軍家治のころにすでにこのような栄養バランスをもった料理を提案されていたとは!今でも奄美大島の人気の郷土食として残る油ぞーめんや、沖縄のソーミンチャンプルとよく似ている。
あっさりした素麺の食べ方に飽きたら、コクがあってしつこくない豆腐麺の細くて繊細な食感を味わうのもいい。この時麺を包んで香らせるのは、ごま油が一番。青菜を香菜パクチーにしたら、とたんにアジアの味にもなる。江戸料理も、こうすればエスニック。世界は時空を超えて通じ合う。
夏の日のお昼時、そんな風に時空間を遊びながら作ってみるのをおすすめしたい。