暑くなり始める頃、いよいよ私たち花屋さんは途方に暮れつつ悩むのです。
‥一体、こんなに暑いのにどんな花材を仕入れようか‥。
この頃から葉物の引き合いが強くなります。暑くて薔薇などは一日で満開、ガーベラの茎は花瓶の水に溶けてしまうからです。
そんな時、どかっと並び始めるのが南国からやって来るトロピカルフラワーたち。アンスリユームやアナナスなど強烈な個性を備えた彼らに日本古来の和花はひっそりと影を潜めてしまいます。
しかし、、、原色のトロピカル勢の裏側から地味〜なオーラをふと背中に感じるのですよ。
その名は「トクサ」
土筆(つくし)の親戚であるトクサは漢字で「砥草」と書きます。
ザラっとした独特の茎は煮込んで乾かし、ヤスリとして使ったとか。
いけばなの先生であった祖母の家の庭には石蕗(ツワブキ)と砥草、そして赤い実のなる万両などが植えられていて梅雨の雨があがると苔もツワブキの葉も艶艶と輝いていて、その後ろに「す〜〜っ」と伸びるトクサから雨の一雫が落ちる‥。なんとも風情がありました。
日本家屋や庭園、美術館そしてモダンな建物でも重宝され涼やかなこの植物。
夏の初めに茎の先端から綿棒のような形をした花(胞子葉群)をつけ胞子を飛ばして子孫繁栄させる、都会においても太古のロマンを感じさせてくれます。
ホテルの装花室に勤務していた頃、懐石料理の箸置きに、トクサを7cmほどに切り揃え、3本ずつまとめて紐でしばる‥何て事もありました。来賓の為、何百本も切り刻んだ苦い思い出。
切り口は、時間が経つと薄墨のような独特の風合いが。
今回の版画。かなこさん大苦戦だったようですがこのボサボサ感がまさにトクサなんだよねー!!と思います。
アレンジメントにプラスするときには一本では長すぎるから3分の一くらいにカットしてアレンジメントにちょっとだけ涼をプラスする程度。
紫陽花と木苺の葉そして‥色味と肌感が何処か異国の「鳥」を思わせる個性的なプロテア(南国の花)をあしらいました。
地味だからこそ、美しい。
“引き算の美学” に、心を惹かれる芒種の頃。
この地味な植物。
まだまだ使い方には研究と課題がたっぷりです。