菖蒲酒にはご用心!?

菖蒲酒

端午の節句に、武を貴ぶ・尚武(しょうぶ)の験をかついで、菖蒲(しょうぶ)湯にしてお風呂を楽しむ古来の習慣が復活の兆しをみせている。

この時期になると、スーパーの入口に、菖蒲湯用のスッと伸びた「匂い菖蒲」の葉がたくさん並んでいる。 
この匂い菖蒲の葉、根元の部分を刻んでお酒に漬けて「菖蒲酒」として楽しむ地方があるときいた。京都の老舗の料亭でも供するという。
さっそく、試したくなるのが人情というもの。匂い菖蒲はサトイモ科の植物、根芋の部分を酒杯につける方法もあれば、根元の白い部分を刻んで酒杯に浮かべるやり方もあるという。購入した匂い菖蒲には、根芋はついていなかったので、根元の白い部分を刻んでみれば、鮮烈な香気がパッと散った。
香り高い薬草酒に、ヨーロッパの「アブサン」がある。ニガヨモギを主成分としてその他薬草を合わせたものだが、菖蒲もブレンドされていたようだ。ゴッホやピカソなど芸術家たちに大人気だったアブサンは、その中毒性が問題視され、80年ほど前に一部の国で製造販売が禁止された。その後、1981年WHOがツヨンというニガヨモギ成分の基準量を見直し、現在は(穏やかな)アブサンが復活しているとのこと。
身体のために良いはずと服用して、健康を害しては困ってしまう。
菖蒲は 日本、中国、インドを含むユーラシア大陸からマレーシア熱帯地域、北アメリカまで広く分布し、各地で薬用に供されてきた。漢方でも、菖蒲根という生薬を用いるし、インドのアーユルヴェーダでも長らく活用されている。その一方で、肝障害や悪性腫瘍を生じるとして規制している国や禁止している国もある。どうも、毒性もあるようだ。
香り高い菖蒲酒を前にして、急に迷いはじめる。今日のところは、菖蒲湯にとどめて、菖蒲酒はおあずけにしようかな!?
薬効あるものは、見極めが肝心。どうぞ、ご用心を。

冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

投稿者: 冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

料理研究家・国際薬膳師 栃木県生まれ。真言宗の寺に生まれ、幼少時より行事料理、郷土料理に興味を持つ。古典レシピ、薬膳などを研究しつつ、現代人の食卓事情に合わせた料理法を研究テーマにしている。地域食材にも造詣が深く、レシピや商品開発も数多く手がける。「季節のあるきかた」では、日々の暮らしを綴りながら、折々の美味しさを発信していく。