しみじみ感じる春の到来 桜切りそば

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「創業200年」。看板に書かれたその文字が、歴史を物語る、そんなお店が麻布十番にある。

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1789年創業の、更科堀井。聞くところによると、日本各地にある更科という名のおそば屋さんは、この更科堀井の繁盛にあやかってその名をつけたのだとか。全国の更科さんの本家本元…。私のような若造がお昼に行って良いのか。看板の文字を前に、ますますそんな思いが大きくなる。「たのもう!」。もはや道場破り的な私。

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そんなこんなで、ドキドキしながらお店に入ると、平日なのにたくさんの人。お客さんも、老夫婦やビジネスマンらしき男性、優雅な奥さま方…。やっぱりなんだか場違いなところに来てしまったかも…? と思ったけれど、接客をしているのは若い女性が多くて、一安心。店内は活気に満ちた明るい雰囲気で、近寄り難い老舗のイメージは、すぐに遙か彼方へ。

注文したのは、ちょうどこの日から始まった、桜切りそば。桜だからピンク色のおそばとばかり思っていたら、その予想は見事にはずれ。

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差し出されたのは、桜の塩漬けがちょこんとのったせいろだった。かわいい! けど、ちょっと地味かも…? そして盛られているおそばには、よく見ると、ところどころに緑色のつぶつぶが。そう、桜切りとは桜の花じゃなくて、桜の葉を練り込んで打ったそばなのだ。ひと口ふくむと、ふんわり広がる桜の香り。桜餅の香りといったら、伝わるかな? これだけで春っぽさをじんわり感じることができるから、香りの力ってすごい。地味と思った桜の塩漬けが、いい味を出しているのね。もしここに桜の花がたくさんのっていたら、香りが強すぎてきつーい味になっちゃったのかもしれない。地味なんかじゃなくて、奥ゆかしいという言葉を使うべきでした。

そばつゆは、この桜の風味と喧嘩しなしように、甘口。やわらかい口当たりですごくおいしくて、おそば、普通盛りじゃなくて大盛りにしてもらえばよかったかなあ。なんてことを思いながら、最後にはそば湯を。ここでもほのかに桜の香り。本当に春がきたような気分になれた。

今回は桜切りそばだったけれど、更科堀井では、季節ごとに味わいが変わる「季節の変わりそば」が食べられる。真っ白な更科そばに旬のものを練り込んだおそばの数々。春はほかに、よもぎ切りや茶そば、秋は柿の葉切り、冬は柚子切りなんかがあって、なかでも気になったのが、夏のトマトつなぎ。おそばとトマトの組み合わせ、すごくすごく食べてみたいから、また訪れよう。お店を出るときに聞いてみたら、20年以上前からこの変わりそばをやっているそうで。こんな粋なものを考えてくれて、ありがとうございます。そば道免許皆伝のその日まで、よろしくお願いいたします。

◇今回のお店は
総本家更科堀井 本店
住所:東京都港区元麻布3-11-4
麻布十番駅から、徒歩7分ほど

◇いただいたのは
季節の変わりそば 桜切りそば 1,050円(税込)
※期間限定のメニューです。

投稿者: 吉田 真那 (季節のあるきかた編集部)

茨城県出身。幼いころから本や雑誌を読むことが好きで、憧れだった出版業界に入る。現在は、美容や食関連の書籍・広告の編集に携わり、日々奔走中。とくに興味のある分野は、衣・食・住、海外文化、そして人。「季節のあるきかた」では、等身大の視点から情報を発信していく。