花桶の水が凍るころ

版絵 岩下加奈子(Mariquita)
版絵 岩下加奈子(Mariquita)

立春。旧暦ではここから新しい年が始まります。長い冬の間、木々や草花は春が来るのをまだですか〜と待ち望むわけですが、本当に彼らの感覚は素晴らしく正確。

気温が何度以上、夜の時間が何十時間それに昼間の日照時間がこれくらいと計算されたところで花の芽がつきます。これを花芽分化(かがぶんか)と呼び、重要な植物の生育のシステム。梅の花なら大体2月のこの時期に咲きますが、その花芽が付くのは随分前。まぁ新年そうそう難しい事はとりあえずサラリと過ぎるとして、ともかく一斉に花咲く様子は映画のワンシーンのように美しく生命力に溢れ、人間はそんな自然の偉大なサイクルの中にぽつんといるわけです。

‘二十四節気’は季節ごとに、その時期ほんの一瞬の変化を見せる植物達を美しい「言葉」で見事に捉えた言わばデータベース。私たち花屋さんはそんな古来より受け継がれるデータを基に全てが回っていると言っても過言ではありません。

2月。ああ‥今がまさに極寒の時期。花保ちは一年のうちで一番良くってお客様にお渡ししたお花がお家で長く愉しんで頂くには最高の季節。市場では「花桶の水が凍っていたよ‥」なんて話も聞きます。一方取引先のレストランやショップでは「春メニュー」に「春のディスプレイ」が登場し始めるのもこの時期です。あれれ、なぜだろう…?と思われるかもしれませんが、寒さが極まるということは、暖かさへ向かう兆しが見え始めるということ。すなわち「春の花材」の出番となるわけです。

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ちなみに立春次項の旬の兆しは「梅の花」。
梅などのいわゆる「枝もの」は花の可愛らしさも然る事ながら、枝の美しさも楽しみたいものです。枝を美しく見せるコツは「器とのバランス」。敢えて短くは切らずに、伸び行くままに生けてみることをおすすめします。より大胆に生けるために、いつもは花器として使わないような日常づかいのものを使ってみるのも素敵ですね。

記事㈫文中

梅の花ならお花屋さんでなくともご近所で見つけることができそうです。隣町のお庭、はたまた野山を散歩…気が付くとあちこちに紅白の梅が。ああ綺麗ねぇ〜2本あるの?と思ったらなんと1本ではありませんか!!これは「源平咲き」と呼ばれ、梅は接木(つぎき)ができるので紅白どちらかの木に違う色の枝を接木する事で花の色がミックスするのです。源氏の旗が白、平氏の旗が赤だったことから、紅白が混じって咲く梅のことを源平咲きというようになったそう。まさに植物トリビア。

岩尾 真紀 (マリキータ東京フローリスト)

投稿者: 岩尾 真紀 (マリキータ東京フローリスト)

東京を拠点に活動する花屋/フラワーコーディネーター。主に企業のプロモーションや、広告、パーティー、レセプション装花や空間コーディネートを提案。1級フラワー装飾技能士、いけばな草月流師範、グリーンアドバイザー。美味しいもの、美しい物が大好きな人々があつまる"羽根木の森サロン"では定期的にお料理教室×花レッスンの五感で楽しむマリキータレッスンを開催。当サイトでの版絵は岩下加奈子(Mariquita)が担当。