海底の吟遊詩人

houbou

寒い季節が旬で、ことに早春の時季の味には格別なものがあるといわれるこの魚。かつては「君魚(きみうお)」などと呼ばれ、やんごとなき人々御用達(ごようたし)の高級魚でしたが、最近は鮮魚店の店頭でも色鮮やかな姿を見かけることが増えてきました。ヨーロッパ産の種は、本場のブイヤベースになくてはならない存在だとか、この魚を選びなさい。
① アマダイ
② カナガシラ
③ ホウボウ
④ ホッケ 

解答:③ホウボウ

解説:
大きく水平方向に広がるコバルトブルーの胸びれ、各々のひれの下についた3対の足のようにみえる軟条(なんじょう)、正面から見ると角ばった顔。勇ましくも見えるが、なかなかとぼけた風貌だ。
ホウボウの名の由来は、この足をつかって底を這うように動く「這(は)う魚」から転じたとも、四角い頭をあらわす「方頭(ほうとう)」が訛(なま)ったなど諸説あるが、浮き袋を収縮させて「ぼうぼう」と鳴く声からだ、というのが妥当のようだ。派手な模様と鮮やかな色を持つ羽のような大きな胸びれが目を引くその様子から「海底の吟遊詩人」という風雅なニックネームもいただいている。

かつてはもっぱら料理店で使われていたが、最近ではスーパーや鮮魚店などにも並ぶようになったのは嬉しいかぎり。とにかく新鮮であれば、刺身や薄造りがよい。ホウボウの白身は、鎧兜(よろいかぶと)をまとったような武張った様子からはとうてい想像できない洗練された味わいを持つ。歯ごたえもよく、ねっとりとした食感で、ほのかな甘みと上品なコクがある。皮と身の間の脂も捨てがたく、これを味わうなら皮を炙(あぶ)った焼き霜造りがいい。
刺身で取り除かれたアラは、捨てずに出汁をとり、吸い物にする。シンプルではあるが、うまい出汁が出る。熱湯をくぐらせ臭みや血を取り除き、味付けは塩だけ。そこに身を加えてもうまい。

ⓒぼうずコンニャク
ⓒぼうずコンニャク

ここ数年、期間限定ながら握りすしのネタにも登場するようになっている。まずはあっさりとした味が楽しめ、やがて隠れていたかのような天然無垢(むく)な甘みがゆっくりと広がっていく。こうした味の入り組みでいえば、人気のマダイやヒラメにも優るとも劣らないすしネタに思えてくる。ことに寒さが残る早春のこの時季の1㌔以上の大型は、身がうっすらとピンクに染まって脂がよくのり、特別のうまさがある。

刺身と同じくらいにオススメなのが、通好みの煮こごり。皮にゼラチン質が多いので、絶品の煮こごりができる。ほかにも塩焼き、蒸し物、揚げ物、ちり鍋、ブイヤベースなど、他の高級白身魚同様、多くの料理に向く。
ホウボウは体色の朱色と勇ましい姿から、めでたい魚として、タイの代わりに祝い事にも使われてきた。また、ホウボウがよく鳴き頭が硬いことから、夜泣きしないで頭の骨が硬くなるようにとの想いから、同じホウボウ科の②カナガシラともども、子どもの生後100日目の「お食い初(ぞ)め(箸初め)」の儀式にも用いられてきた。

提供:ノーチラス工房
提供:ノーチラス工房

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尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

投稿者: 尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

平成21年、一般社団法人 日本さかな検定協会を立ち上げる。自ら日本各地をめぐり、検定の副読本執筆まで手がける魚食文化発信のエキスパート。 日本さかな検定(愛称:ととけん)とは、近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組み。 2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年には全国12会場まで拡大。小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出。今年は6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡ほかの各会場で開催予定。