寒さが厳しいこの時季、海の底に生息するこの魚は海の水が冷たくなるほどに皮下脂肪を蓄え、肝も大きくなってきます。どうです、この肝のホイル蒸し。フレンチのフォアグラと並び称されるほど珍重されます。
が、こればかりではありません。「捨てるところなし」といわれるこの魚、肝や身に限らず「七つ道具」と呼ばれる異なる食感と味わいを持つ部位が名物鍋をひきたてます。
冬の味覚の食材として誉れ高いこの魚を選びなさい。
①鮟鱇
②皮剥
③河豚
④真鱈
【解答】①鮟鱇
【解説】
「岐阜のあゆ、水戸のあんこう、明石だい」という言葉があるほど、古くから水戸のあんこう料理は全国の食通たちが、五指の中に入れるほど。偕楽園の梅で名高い水戸地方では「あんこうは梅の咲くまで」といわれ、冬場の名物料理だ。
江戸時代の川柳にもこうある。
魚へんに安いと書くは春のこと 柳多留
アンコウは深海性の魚で、海底の砂泥に半ば身を沈めて、背中に生えている糸状のひれをゆり動かし、餌にする小魚たちをおびき寄せる。この姿から英語ではアングラー・フィッシュ(釣りをする魚)という。大食漢で、おどろくほどの量の魚を丸のみする。
海底で、小魚が目の前に来るのを待ち伏せするアンコウのこの生態は、日本では「あんこうの待ち食い」ということわざに。働きもせずに儲けるたとえに使われる。「あんこう武者」という言葉もあった。格好ばかりで、口では強そうなことを言うがその実、臆病で卑怯、つまりは役に立たない侍をいった。
怠け者のイメージを持たれているアンコウ。が、食材とみるや、その評価はがらりと変わってくる。
アンコウは成長すると1.5メートルにもなり、そのうえくにゃくにゃとしてとらえどころがなく、全身がヌメリに覆われている。これではどんな料理名人でも、まな板の上で大型をおろすには始末に悪い。それでアンコウ産地で考え出されたのが、「吊るし切り」という独特の手法である。鉤(かぎ)に口を引っかけて吊るし、水を入れて腹を膨らませてさばくのだ。皮をむき、ヒレを落とし、腹に包丁を入れて肉をとり、臓物を切っていく。
最後に、鉤に残るのは口のまわりの骨だけだ。
鮟鱇は唇ばかり残るなり 江戸川柳
これを七つに分け、皮、肝臓、卵巣、胃袋、ひれ、白身、あご肉を「アンコウの七つ道具」と称し、肉より皮や臓物が美味とされる。
捨てるところがない、と言われるゆえんだ。
七つ道具をそれぞれ紹介してみよう。
ひれ(トモ):アンコウの両腕にあたる部分で付け根付近の食感がよい。
皮:女性に嬉しいコラーゲンがたっぷり。一品料理としては、とも酢和えが代表的。
えら:アンコウはエラも食べられる。弾力ある食感が楽しめる。
きも:肝臓の‘あん肝’は、酒肴としても絶大な人気を誇る。海のフォアグラともいわれ珍重される。肝の大きさでアンコウの価格が決まるほど。
胃袋(水袋):モツのような食感。湯通しして酢味噌で食べてもおいしい。
卵巣(ヌノ):これを鍋に入れると、体が温まるといわれる。ポン酢で食しても美味。
柳肉:身の部分。白身で淡泊。から揚げにしてもおいしい。
この七つ道具をすべて使うのが、あんこう鍋。
大きくわけると、しょうゆ仕立ての東京風。そして、本場、常磐では肝を溶かし込んだみそ仕立ての鍋となる。各部位をそのまま鍋にしてしまうと臭みがあるので、ぜひ湯通ししたい。下ごしらえは、ほぼそれだけで完了する。
「東のあんこう 西のふぐ」とは東西の鍋の両横綱を並び称した言葉だが、近年のアンコウ水揚量日本一は、なんとフグの本場、下関である。
萩市の見島沖から対馬海峡にかけての日本海で漁獲されるアンコウは、沖合底びき網漁の基地、下関に水揚げされる。主に関西圏に出荷されているが、下関ではフグほどにはアンコウを食べる習慣がない。そこで、10月から2月に獲れた重さ2キロ以上のものを‘下関漁港あんこう’としてブランド化をめざしている。
下関のあんこう鍋は―といえば赤みそと白みそをブレンドして溶いただし汁に肝でコクを加えている。身や皮などを地元産の野菜やエビなどと煮込み、まろやかながら比較的あっさり仕上げた鍋だ。
ところで、腹が突き出ている超肥満型の関取を「あんこ型」というが、これは決して鯛焼きに詰める‘あんこ’のことではなく、姿かたちが魚のアンコウに似ているからで、言葉がつまって「アンコ型」となったそうだ。
②~④いずれも冬場に旬を迎える。②カワハギはアンコウと同様、肝が尊ばれ、その大きさが値段を決める。白身はフグに似たシコッとした身質をもち、甘みがあり旨みがあるのが特徴。肝じょうゆで食べるといっそうその美味しさがひきたつ。③フグ。アンコウと並び称される冬の味覚。④マダラ。フグ同様、白子が珍重される。ちり鍋が定番。
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