梅雨に入り、人間にとってはうっとうしく感じることが多いこの時季は、魚にとっては恵みの雨。山々からの栄養をふくんだ水が海へ流れ込み、海にはプランクトンが豊富となり、さまざまな魚が肥え太ります。
卵をもつ梅雨の時季に旬を迎えるため、「梅雨」や「麦わら」という季節の言葉が冠され、背びれの形から「鶏魚」の漢字があてられるこの魚を選びなさい。
①イサキ
②コショウダイ
③コロダイ
④メジナ
解答:①イサキ
解説:
暖かい海を好むイサキは、本州中部から東シナ海にかけて広く生息し、近海の海藻の多い岩礁域に棲んでいる。音をあてた伊佐木のほかに、鶏の冠(とさか)のような背びれを持っていることから「鶏魚」とも表わす。
幼魚では体に3本の縞がくっきりあり、それがイノシシの子どもに似ているために「ウリボウ」とも呼ばれている。こうしたニックネームもイサキが夏を代表する魚で、庶民に広く愛されていればこそだ。
「梅雨イサキ」あるいは麦の収穫時期でもあるので「麦わらイサキ」という言葉もあるように、メスもオスも腹に卵や白子を大量に抱え込む産卵期のこの時季がもっとも美味になり、鯛にもまさるとさえいわれる。もともと西日本の夏を代表する魚だったが、温暖化のせいか最近は関東近海でも水揚げが増えている。白身魚のイサキの皮には磯魚の証でもある独特の磯臭さがあり、それが火が通ったとき、この魚独特のうまみに変わる。
小ぶりなイサキはなんといっても塩焼きが絶品。塩を強めに振って皮をパリッといただくもよし、焼く直前に塩を振り、ふっくらとした身をいただくもよしだ。
身離れがよく食べやすい反面、イサキは骨が硬いため、うっかり骨を飲みこんで喉に刺さりでもしたら大変。昔、これが原因で和歌山の屈強な鍛冶屋(かじや)が亡くなったことから「カジヤゴロシ」なんて物騒な異名も。九州でも「イサキは北を向いて食べろ」といわれる。これもやはり小骨をのどに刺して命を落とすから注意しろという戒めで、北向きとは北枕を指す。
塩焼き用の魚というイメージが強かったが、流通の発達から、最近では刺身で食べられるほうが多くなっている。そのため、活け締めして出荷する産地も増えている。
1Kg以上のイサキだったら刺身にしたい。大型のものほど脂がのってうまい。わさび醤油が定番だが、特に夏場はしょうが醤油でサッパリといただくのも。
刺身にすると赤い血合いがきれいに映える。コリッとしているのに柔らかい食感をもち、上品できめ細かい舌触り。見るからに脂がのっているのにサッパリした味わいだ。
厚みのある皮を焼き切りという皮を炙る“焼き霜造り”にすると、いっそう風味が引き立ち、皮と身の間の「皮目」の脂が堪能できる。
ちょうど今ごろ、まるまると太ったイサキが築地の仲卸店の店頭に所せましと並ぶ。市場の言葉で、この時季のイサキを称して「味の濃い魚」と呼び表わす。河岸の男たちの独特な表現だが、身肉の味が強く主張している魚のことで、一般には赤身のマグロやカツオに使われる言葉だ。
白子のから揚げ。卵や白子の味も絶品で昔から珍重される。産地では新鮮なものを刺身でぽん酢で食す。
イサキの仲間は、刺身、塩焼き、ポワレなど料理法を選ばずおいしい③コロダイのほか、ムニエルにして絶品の②コショウダイなど、美味ぞろいだ。
イサキは磯釣りのターゲットとしても人気だ。同じ岩礁域でイサキよりも浅い層にいる④のメジナ―冬に旬を迎える―は、この梅雨時に荒食いするため、イサキねらいの釣り人を悩ませる存在。
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