セリですっきり春を迎える

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料理教室で行事食をテーマにしたりしているくせに、お正月の代表的な行事食である七草粥にはどうも食指が動かない。

スズナ、スズシロ、セリといったメンバーは、普段でも食卓にのせるからいいけれど、ナズナはぺんぺん草だし、ゴギョウやハコベラ、ホトケノザといった面々も、さして食べてみたい気は起こらない。だいたい、食いしん坊の宿命で、お粥といえばすぐに中華風や韓国風の風味の強いしっかりしたものを食べたがってしまうので、あっさりの極致みたいな七草粥には近づかないというわけ。申し訳ない。

その代り、と言っては強引だけれど、小寒の頃から春先にかけて、セリだけはたっぷり食べたい気持ちになる。もっとも、これまた和風のお浸しではなくて、韓国風のムンチが大好物なのである。「ムンチ」というのは、「手で揉みこむ」という意味だから、正確には「セリをムンチしたナムル」ということになるが、「ムンチ」という柔らかなような有無を言わせないような語感が好きで、勝手にそう呼んでいる。

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レシピは簡単。セリを流水で洗って、適当な大きさに切り、塩をなじませるようにムンチ。さらに、香り高いごま油をたっぷりかけて、さらにムンチ。仕上げに切りゴマをふりかける。おろしニンニクを入れてもいいのだけれど、個人的にはセリの香りと苦みに集中したいので省略する場合が多い。
このレシピは、結婚したての頃親しくしていた朝鮮籍のお友達に教わった。ひと口食べた瞬間に、その鮮やかな香りと味に目をみはったのを今でもよく覚えている。しかも、食べていると、なにか全身から老廃物がデトックスされていくようで、とても軽やかな気分になったのだ。単に気のせいかもしれないが、中国薬膳でもセリは「肝」を落ち着かせる効能を持つとされ、熱を取り去り血圧を下げ、利尿作用でむくみを取り、血液を浄化するといいことづくめ。冬はなにかとからだが滞る季節だから、たっぷりのセリで身も心もすっきりさせて、春の訪れを待ちたいと思う。

冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

投稿者: 冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

料理研究家・国際薬膳師 栃木県生まれ。真言宗の寺に生まれ、幼少時より行事料理、郷土料理に興味を持つ。古典レシピ、薬膳などを研究しつつ、現代人の食卓事情に合わせた料理法を研究テーマにしている。地域食材にも造詣が深く、レシピや商品開発も数多く手がける。「季節のあるきかた」では、日々の暮らしを綴りながら、折々の美味しさを発信していく。