干し柿は、やっぱり「はぐっ」が一番

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干し柿が渋柿で作られている、と知ったのは小学校の高学年くらいだったろうか。

あんな渋いものからあんなに甘いものができるなんて、にわかには信じられなかった。が、実際に干し柿を作っているところを見ると、たしかにそうだったので、干すだけなのになぜ? と自然の不思議さにちょっとショックを受けたのを覚えている。
食に関わる仕事をするようになってから、甘柿は熟すとタンニンが不溶性になって、口の中でも渋みが溶け出さないために甘い一方、渋柿のタンニンは熟柿になるまでは、頑固に水溶性のままだ、という「知識」は持つようになった。ほかにも、そもそも渋柿の糖度は、メロンやブドウより、そして甘柿よりも高いのだ、とか、渋柿を干すと甘くなるのは、柿の水分が抜けてタンニン成分が凝縮・重合し(これが不溶化)、舌にある味蕾細胞よりも大きくなって細胞に感知されず、結果渋みを感じなくなるからだ、ということも知った。しかし、これはただ知識が増えたというだけのこと。干すという単純な作業のみで、渋柿があんなに甘くなる不思議に驚いた気持ちが消えたわけではない。
寒風吹きすさぶ大雪の頃になると、ここ何年か、山梨の知人から極上の手作り干し柿が届く。あんまり美味しいので、そのまま食べるだけでなく、料理に仕立てて味わってみる。好評なのは、干し柿の白和え。シンプルに柿とお豆腐だけ、またはクルミを加えて旨みの三重奏にするのもいい。洋風にクリームチーズと合わせれば、オツな酒の肴に変身するし、干し柿をブランデーに浸してから生ハムでくるんで前菜に、という手もある。
と、干し柿を、あの手この手で料理の素材にして楽しんだあと、でも、やっぱり干し柿は、そのまま「はぐっ!」とかぶりついて、そのねっとりした甘みを堪能したら、それを煎茶で洗い流し、そしてまた「はぐっ!」、が一番なのかも、と思ったりする。寒風の素敵な贈り物だ。

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冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

投稿者: 冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

料理研究家・国際薬膳師 栃木県生まれ。真言宗の寺に生まれ、幼少時より行事料理、郷土料理に興味を持つ。古典レシピ、薬膳などを研究しつつ、現代人の食卓事情に合わせた料理法を研究テーマにしている。地域食材にも造詣が深く、レシピや商品開発も数多く手がける。「季節のあるきかた」では、日々の暮らしを綴りながら、折々の美味しさを発信していく。