ズワイガニは、セコが好き

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十一月の初旬になると、日本海側の各地でズワイガニの漁が解禁になる。

冬の味覚のスーパースターであるこのカニ、土地によって呼び名もいろいろで、それぞれその美味を競いあって消費者を喜ばせてくれる。
以前は、越前海岸に住んでいた年上の友人夫妻に、目の前の海で獲れる雄のズワイガニ、すなわち越前ガニの最上のところをたっぷりご馳走してもらうという贅沢にあずかったこともあるのだが、ここ二、三年楽しみにしているのは、鳥取の漁師さんからいただくトロ箱にぎっしり詰められた雌のセコガニだ。

雌も、土地によってセコ、セイコ、コウバコガニなど、違う呼び名があるが、甲羅の大きさは雄の半分ほどで、お値段もぐっとお安い。雄よりこちらが好きという産地の人も多いと聞く。たしかに、茹でたあと海水くらいの濃度の冷たい塩水で身を引き締めたセコガニを食べると、深い味わいの味噌、鮮やかなオレンジ色の内子のほっくりした明るい濃密な旨み、海の香りただようサクサクした歯ざわりの外子の三重奏に夢中になってしまう。清冽な蟹肉と味噌が織りなす雄ガニの剛速球的な美味が持つ「凄味」とは異なるが、舌がどんどん惹き込まれ、いつまでも食べていたい気持ちにさせる雌ガニの「魔味」にも降参だ。

しかも、セコガニには、雄ガニではちょっともったいなくて気が咎める翌日の楽しみがくっついている。細い脚の中から根気よくほりだした身で、パスタソースを作るのである。ひとかけのニンニクと一緒にカニ肉をオリーブオイルで炒め、白ワインで香りをつけたら、カニの殻でとった出汁とトマトソースを入れてさっと煮詰める。トマトソースではなく、湯むきをして種をとったトマトのみじん切りを加えてもいい。そして、アルデンテに茹でたスパゲッティにそれをからめ、黒胡椒を挽いてふりかけ、間髪を入れず熱々を頬張る。これまた脳天直撃の美味。ああ、今年は雌の禁漁までに何回楽しめるかしら。

冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

投稿者: 冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

料理研究家・国際薬膳師 栃木県生まれ。真言宗の寺に生まれ、幼少時より行事料理、郷土料理に興味を持つ。古典レシピ、薬膳などを研究しつつ、現代人の食卓事情に合わせた料理法を研究テーマにしている。地域食材にも造詣が深く、レシピや商品開発も数多く手がける。「季節のあるきかた」では、日々の暮らしを綴りながら、折々の美味しさを発信していく。