秋味が今年も、生まれた川に帰ってきました

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まばゆいばかりに輝く銀色の鱗(うろこ)。秋もたけなわ、鮭たちが身を光らせて、産卵のために近海から生まれた川にのぼってきています。主産地の北海道では秋味の名で親しまれる100%天然のさけを選びなさい。
①アトランティックサーモン
②キングサーモン  
③ギンザケ
④シロサケ

【解答】④シロサケ

【解説】鮭といえば北海道。アイヌ語では鮭を「カムイ・チェプ」(神の魚)とか「シペ」(本当の食べ物)と呼ぶ。鮭はアイヌの人々にとってたいへん重要な意味を持つ魚である。鮭には神が宿るとされ、川にのぼらぬ年は飢餓を意味したともいう。
秋から冬にかけて卵から孵化(ふか)した鮭は北海道の川で幼少期を過ごした後、雪どけの季節に川をくだる。オホーツク海を経てベーリング海とアラスカ湾を回遊し成長した鮭は、3~5年で成魚に。そして、産卵のために美しい自然がある北海道へと帰ってくる。鮭が生まれた川へ遡上(そじょう)を始めるのは9月頃から。北海道で秋鮭や秋味の名で親しまれるこれらのサケを、海に仕掛けた大型の定置網で獲っている。

川が美しかった昔、鮭は太平洋岸では静岡県の天竜川まで、日本海側では九州・有明海まで獲れた。岩手県や山形県には旧暦の11月15日(現在の12月)の夜、鮭のオオスケという王が眷属(けんぞく)をつれて、「オオスケコスケ、いまのぼる」と言ってやってくるという言い伝えががある。この声を聞くと三日のうちに命を失うといって人々は外出を慎み、そしてこの日が過ぎると川に鮭の群れがのぼってくる。遠賀(おんが)川上流、福岡県嘉穂町の鮭神社では、鮭は竜宮の使いとして食用が禁じられてきた。大海から、生まれた川にちゃんと戻ってくる鮭に、人々は神秘感をいだいたのだろう。
なぜ鮭は生まれ故郷がわかるのか。謎は多いが、まず、体内時計を使って、太陽の位置から方位を知り、海から川へ向かうといわれる。沿岸に近づくと、今度は抜群の嗅覚で川を探すという。稚魚時代に嗅いだ川の水の匂いをしっかり覚えていて戻ってくるというから、まったくたいしたものだ。産卵のために母なる川へと回帰する―母川回帰は、サケの魅力を語る上で欠かせない。

秋が旬だった生鮭も、いまや年じゅう店頭に並び、種類もさまざま。ふだん刺身や回転寿司などで食べている「サーモン」の多くは、孵化から出荷まで生け簀のなかで人工的に育てられた養殖の鮭だ。ノルウェイなどから輸入される①アトランティックサーモンやチリ産の③ギンザケは100%またはほとんど養殖されたもの。②キングサーモンには天然魚と養殖ものがある。米国でキングサーモンに次ぐ高級魚、ベニザケはすべて天然ながら、ほとんどがアラスカ、カナダから輸入される。  
秋鮭、秋味と呼ばれるのは日本生まれのシロサケ。正月用の新巻きにされるのはこの種だ。これが春に北洋で回遊している時期に獲れると「トキザケ」と呼ばれ、特に脂がのった高級品として知られている。広大な海のなかをのびのび泳ぎ、2~3万㎞にもおよぶ長い道のりを旅してきた天然の生のシロサケが店頭に並ぶのは今だけ。養殖のアトランティックサーモンなどと較べ高タンパクにして、低カロリー、低脂肪のヘルシー食材でもある。石狩鍋に三平汁、ちゃんちゃん焼きにはらこめし、酒の肴に氷頭なます、酒びたしと捨てるところなく使える各地に伝わる郷土の味もよし。
旬と向き合うなら、ひと手間かけて旨みをぐっと引き出し、いつもの食卓に並ぶ焼鮭とひと味ちがう季節のごちそう、塩麹漬け。そして旬の生筋子でつくるいくらのしょうゆ漬けはつくりたて、できたての食感を楽しめる今だけのぜいたくだ。

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尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

投稿者: 尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

平成21年、一般社団法人 日本さかな検定協会を立ち上げる。自ら日本各地をめぐり、検定の副読本執筆まで手がける魚食文化発信のエキスパート。 日本さかな検定(愛称:ととけん)とは、近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組み。 2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年には全国12会場まで拡大。小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出。今年は6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡ほかの各会場で開催予定。