しば漬けの酸っぱさとキュ、キュとした歯触りが、夏風邪が治りかけのからだに嬉しい。
しば漬けは、赤紫蘇と茄子のものが基本で、それに夏野菜がいくつか加わる。夏が旬の野菜でつくるしば漬けだが、しば漬けに欠かせない赤紫蘇の収穫時期は6月~7月なので、真夏にはまず出回らない。頭の中ではもう定番の茄子にくわえて茗荷、甘長唐辛子、胡瓜のしば漬けをキュッ、キュッさせながら白ご飯をいただくイメージでいっぱいだというのに、肝心の赤紫蘇が手に入らない。困った、困った…、となるのはいつもの私。今年は「カリカリ梅」用に入手して塩漬けにした赤紫蘇がまだふんだんにあるのだ。
梅干しやしば漬けの赤い色に欠かせない赤紫蘇だが、実はそれ自身では赤く発色はしない。梅干しの赤い色は、赤紫蘇が梅のクエン酸に反応してはじめて出てくる。しば漬けの場合も同様で、野菜の乳酸発酵が進んでくると、その乳酸と反応して赤く染まっていく。赤紫蘇は、いわば漬かり具合を判定するリトマス試験紙ともいえる。
地元の直売所で買ってきた茄子、茗荷、甘長唐辛子、胡瓜を塩でもんで赤紫蘇と一緒に重石をして漬けこむ。毎朝、酸味の具合を想像して赤さを確認しながら食べごろの色を待つのは楽しい時間だ。きっと仕上がりは、赤みがかった少しくすんだ紫色になるはず。昔から高貴な色とされてきた紫色だが、江戸時代に流行した青みがかった派手な紫色の「今紫」に対して、日本古来から愛されてきたくすんだ紫色を「古代紫」という。
漬物樽の中が「古代紫」に染まるころには、きっともう秋風がふいているはず。