萌葱(もえぎ)、若草、青葉、若竹。これらはどれも、緑色をあらわす日本の伝統色の色名だ。日本人は昔から、目に入ってくるたくさんの色の、かすかな違いを感じ取り、それを色名に残してきた。
…な〜んて偉そうに語ってみたけれど、私ももっぱら勉強中。そんな日本人の価値観に心打たれ、少しずつ覚えているところだ。
どうしてこんな話をしているかというと、今回は、色がポイントのおそばなのだ。一年でもっとも緑色がきれいに映える立夏のころ、おそば屋さんに登場する変わりそばのひとつが、茶そば。
ひと目見て、思わずわぁっと声をあげたくなる、鮮やかだけどどこかやさしい緑色。伝統色のなかで、この緑色はどれにあてはまるのだろう。
調べてみると、近いのは萌葱色のよう。歌舞伎の幕の、赤、黒、緑の縞模様に使われる、あの色のこと。
そもそも茶そばとは、更級粉に抹茶を練り込んで作ったもので、製粉技術が向上した江戸時代に登場したといわれている。色と香りを味わう、特別な味わいかたがあるかも! と思い、築地にある「さらしなの里」で聞いてみた。
一つ、まずはおそばだけを口に含み、その香りと風味を味わうべし
二つ、次につゆだけを一口のみ、甘さ辛さ、濃口薄口を味わうべし
三つ、おそばにつゆをちょんとつけ、ズズッとすするべし
それから、茶そばはあげたてよりも、少し時間がたってからのほうが水分がおちて風味が増すから、ゆっくり食べることもポイントだそう。
そうなんですね! と頷きつつお箸をはこぶと、ふっと鼻にぬけるような上品な香りがして、噛み締めるとおそば本来の味と抹茶の風味のバランスも絶妙。目を閉じると、浮かんでくるのは一面緑の茶畑、もちろんBGMは「夏も近づく八十八夜〜♪」…というのは言い過ぎかもしれないけど、とにかく最後までさわやかな緑色を楽しみながら、きれいに完食。ごちそうさまでした。
色の違いを繊細に感じ取ってきた日本人は、料理も、旬を舌で味わうだけじゃなくて、目で楽しむことも大切にしてきた。そういうこころは忘れたくないし、庶民が食べるおそばにも、こうした粋なはからいがあることこそ、“クールジャパン”なんじゃないだろうか。
◇今回のお店は
さらしなの里
住所:東京都中央区築地3-3-9
築地駅から、徒歩2分ほど
◇いただいたのは
季節の変わりそば 茶そば 864円(税込)