竹之御所風・たけのこ姿ずし

たけのこ姿ずし

東京・小金井に三光院という臨済宗の尼寺がある。ここは、室町時代から続く、京都嵯峨にある尼門跡(にもんぜき)寺院・曇華(どんけ)院の別院で、歴史ある雅な精進料理を今に伝えている。

尼門跡とは、天皇家の姫宮が主に入寺された寺院のこと。平安の昔から遠く離れ、武家制度が確立してからも、時の権力者から手厚く保護されてきた。
曇華院の開祖は、順徳天皇の曾孫であり足利義満の外祖母にあたる智泉禅尼である。彼女は33歳で出家し、夢窓国師のもとで修業したのちにこの寺院を開いた。

曇華院は、「竹之御所」という名でも親しまれている。明治初めに嵯峨に移る以前は、三条東洞院にあってその広大な敷地に、うっそうと孟宗竹が茂る寺であった。
東京・小金井の分院・三光院にも、竹之御所を髣髴とさせる立派な竹林があり、まさに今頃、穀雨の時分には筍が顔を出しはじめる。
ここ三光院では、今も竹之御所由来の見事な精進料理が味わえる。

典座役の西井香春さんが仕立ててくれる精進料理のコースは、大徳寺納豆の塩気を一粒忍ばせた最中から始まる。コース料理の中でもひと際目を引いたのは、お煮しめの一つとして出された山の芋ののり巻き。あまりの佇まいのよさに惚れ込み、ご伝授を願ったところ「良いものはひろまります。」と快くご指導くださったことは忘れがたい思い出だ。

「筍すし」もその時に西井さんからうかがった一品である。毎春、嵯峨の曇華院から分院である三光院に送られてくるという。両寺院をつなぐ、季節の挨拶だ。
「刻み昆布を混ぜ込んだ寿し飯を、煮筍につめて押寿しにしたもの」という西井さんの説明を頼りに、穀雨もせまった先日、私も「筍すし」を拵えてみた。
なかなか、美味しくできたとは思うのだが、その昔、天皇家から入寺された姫宮さまのお口を喜ばせるにはもう少し精進が必要かもしれない。

冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

投稿者: 冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

料理研究家・国際薬膳師 栃木県生まれ。真言宗の寺に生まれ、幼少時より行事料理、郷土料理に興味を持つ。古典レシピ、薬膳などを研究しつつ、現代人の食卓事情に合わせた料理法を研究テーマにしている。地域食材にも造詣が深く、レシピや商品開発も数多く手がける。「季節のあるきかた」では、日々の暮らしを綴りながら、折々の美味しさを発信していく。