わさびの花は怒らせて

春分 わさびの花は怒らせて

わさびの花の出荷がはじまりました。時季ものは出まわる期間がとても短いですが、逃さずにキャッチして速やかに下処理をしておけば、2週間くらいは十分に楽しむことができます。春分のわさびの花は、ツーンと辛さを引出して、醤油漬けにしてみてはいかがでしょう。

ポイントは、わさびの花を“怒らせる”こと!葉わさびや花わさびはそのままでは辛くありません。辛味を出すには、“怒らせる”ことが必要なのです。方法は簡単、少量の塩でよく揉みこむことです。わさびの辛味成分は、よく揉みこむと出てきます。これを“怒らせる”というのです。

わさびの花は、80℃ほどの湯で7~8秒ほどゆがいてください。熱湯だと辛さが抜けてしまいますから、温度には注意が必要です。ザルにとって、少量の塩で揉みこみます。このとき、砂糖も少し入れると辛味が引き立つと聞いたことがありますが、実はわさびの花そのものに柔らかな甘みがあるので、私はお塩だけにしています。こうして刺激をすることで細胞壁が壊れ、辛味成分が出てきます。辛み成分は揮発性なので、揉みこんだ後は密閉容器にいれて保存します。2~3時間ほどおいて、ツーンと刺激的な香りが立ったところで、お好みの生醤油をかけ回して出来上がり。柔らかいお味が好きな方は、味醂、酒、砂糖でほどよく味を整えるのもいいでしょう。

醤油漬けの花わさびの使い勝手は、オールマイティです。刻んでお刺身、お蕎麦の薬味はもちろん、鰻のかば焼き、とんかつにも。ステーキの付け合せやタルタルソースに加えても美味なるかな。ツーンと鼻に抜けるわさびの花の香りは、きっと新鮮な活力を産んでくれるはずです。春分の日、真東から上る太陽の光を浴びたあと、納豆の薬味に使ったり、あるいはバターたっぷりのトーストにのせて香りを楽しんだりと、素敵な朝食でエネルギー充填して一日のお仕事に立ち向かうというのはいかがでしょう。

冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

投稿者: 冬木 れい (料理研究家・国際薬膳師)

料理研究家・国際薬膳師 栃木県生まれ。真言宗の寺に生まれ、幼少時より行事料理、郷土料理に興味を持つ。古典レシピ、薬膳などを研究しつつ、現代人の食卓事情に合わせた料理法を研究テーマにしている。地域食材にも造詣が深く、レシピや商品開発も数多く手がける。「季節のあるきかた」では、日々の暮らしを綴りながら、折々の美味しさを発信していく。