仕掛けのあるにしんそば

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少し暖かくなったかと思うと、その翌日には冬のような寒さに戻ったり、まさに春は三寒四温。浅草の弁天を訪れたのは、まだ冬のコートが手放せないような日で、やっぱり食べるなら温かいおそばだなあと思いながら、お店に向かった。

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1951年創業のこちらは、落語家の桂文枝さんもよく訪れるお店なのだとか。にしんそばは彼のブログでも何度か紹介されていて、味はきっとお墨つきに違いないと、期待しながら待つこと10分。お待たせしましたぁ! と、運ばれてきたおそばを見てびっくり。つゆが茶色くない! おそらく初めて見る、透明な澄んだそばつゆだった。主役のにしんが見えないけれど、なかにいるのかしら…と思いながら、まずはひと口。

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…! しょっぱくない!! というのが、私の(こころのなかでの)第一声。その澄んだ色と同じで、澄んだ味というか、すごく上品で、あっさりとしていた。生まれも育ちも関東の私にとって、そばつゆといえば、お醤油ベースの濃厚なもの。関西のそばのだしは透明、というのは聞いたことがあったけれど、これかぁ! と、思いがけない出会いに、ちょっとびっくり。にしんそばも、もとはといえば関西、主に京都で食されていたものだし、だからその味を求めて関西出身の桂文枝さんも食べにきていたのかもしれない。
そして食べ進めていくと、やっと主役のにしんがお目見え。身はほろほろとやわらかく、つゆのしみたおいしさが、じんわりと口のなかに広がっていく。

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ところで…。にしんは春告魚、というのは聞いたことがあったけれど、ちょっと待って、そういえば白魚も春告魚じゃなかったっけ? 春告魚って、何種類もあるものなの?? そう思って調べてみると、もともと春告魚はにしんを指していたのだそう。だんだんと収穫量が減ってしまったこともあり、地域によっては眼張や鰆、白魚のことも春告魚と呼ぶようになったのだ。

ここでふと気がついた。あれ、さっき透明だったつゆが、茶色くなってる! にしんの味もつゆに移って、最初とはまた違う味。不思議に思って、帰り際にお店の人に聞いてみると、つゆの色と味の変化を楽しんでもらいたくて、そういう仕掛けをしているんですよ、とのこと。一杯のおそば、あなどってはいけない。その一杯は、お客さんにおいしく、楽しんで食べてもらいたいという、店主のこころ尽くしの一杯なのだ。

◇今回のお店は
弁天
住所:東京都台東区浅草3―21-8
浅草駅から、徒歩12分ほど

◇いただいたのは
にしんそば 950円(税込)

投稿者: 吉田 真那 (季節のあるきかた編集部)

茨城県出身。幼いころから本や雑誌を読むことが好きで、憧れだった出版業界に入る。現在は、美容や食関連の書籍・広告の編集に携わり、日々奔走中。とくに興味のある分野は、衣・食・住、海外文化、そして人。「季節のあるきかた」では、等身大の視点から情報を発信していく。