「白魚や さながら動く 水の色」
この句は、江戸中期の俳人・小西来山の句。雪解け水で豊かに増した川の水面に、あたかも波紋がさざめくように群れ泳ぐ白魚の姿を詠んだものです。
半透明の、命のはじまりそのもののあえかな白魚の様子が、初春の息吹の化身のように感じられます。春の訪れとともに海から河口に入って産卵する白魚を漁るのは、ちょっと可哀そうになります。でも、その透き通った味を思うと、一気に春めいた気分になるのです。
かの徳川家康は、この白魚が大好物でした。三河の白魚をわざわざ大川に移入させたのだといいます。それで、「月も朧に白魚の篝もかすむ春の空」と歌舞伎の大川端での名セリフも生まれたわけです、献上品以外の漁は禁止していた時期もあったようで、おのずと白魚のブランド価値はあがるというものです。
白魚は海ものと汽水域ものとがあってやはり味にちがいがあります。内陸育ちの私が好むのは、汽水域のもの。最近では青森の東部、三沢基地に近い大きな湖・小川原湖のものをよくいただきます。きれいに洗われて冷蔵で届いた透き通った白魚を、少しの小麦粉と三つ葉でかき揚にすると、汽水域特有の香りがたって、ちょっとほろ苦い。
静かな春のはじまりです。