秋が深まり山が色づいてくる頃、海でも鮮やかな色の魚が旬を迎えます。関西では「ぐじ」と呼ばれ、京料理には欠かせないこの魚を選びなさい。
①アマダイ
②イシダイ
③キンメダイ
④マダイ
【解答】
①アマダイ
【解説】
マダイが春の桜に例えられるのなら、アマダイは紅葉の美しさを映しているかのよう。遠く若狭から京の都へと運ばれてくるアマダイは、その色彩と繊細な味わいで御門(みかど)や公家たちを楽しませ、都に季節の移ろいを感じさせたことだろう。その伝統は失われることなく、京料理に欠くことができないものとして、今も受け継がれる。
アマダイは独特のうまみのある魚だ。肉質はやわらかく、ほのかに感じる甘みに上品な味わい。一度食べると忘れられない味といってもよい、日本人好みの魚である。しかし、身に水分が多いので足が早い(早く傷む)魚でもある。したがって、鮮度を落とさず魚本来のうまみを引き出す、日本独自の知恵と工夫が凝らされた。鮮度を保つには内臓を取り出し、軽く塩で締め、余計な水分をとる。同時に、魚本来のうまみも増していく。
そんなアマダイは、和食を代表する食材のひとつ。北陸・石川から山陰、長崎県にいたる日本海側に多く漁獲されるが、なかでも、福井県若狭湾で獲れるアカアマダイは特に「若狭ぐじ」と呼ばれる。
かつて浜でひと塩されたぐじは、鯖や若狭がれいとともに京に運ばれ、「若狭もの」、「若狭一汐(ひとしお)」として京料理の高級食材として珍重されてきた。京料理の華にして、アマダイ料理の王道が背開きにしたぐじの鱗(うろこ)を落とさずに焼き上げる「若狭焼き」だ。
鱗もおいしく食べられるアマダイをさっと塩で締め、酒と醤油を合わせた「若狭地(わかさじ)」とよばれるタレをかけながら焼く若狭焼きは、シンプルながらぐじ本来の味わいを堪能できる。ふっくらやわらかな身と、パリパリに焼き上げた香ばしい鱗の食感は若狭焼きならではの美味。身が崩れやすい魚だけに調理も難しく、京ではこの若狭焼きの善し悪しが板前の腕の目安とされるほど伝統のある料理。素材の魅力を最大限活かしたこの調理法は、浜の知恵と京料理の技が生み出した極上のひと皿なのだ。
アマダイは刺身に一夜干し、みそ焼き、塩焼き、照り焼き、昆布締め等々、余すところなく使えるため、どんな料理でもおいしく食べられる。特に「酒蒸し」は、家庭でも簡単に作ることができ、ふっくらとした上品な甘みが楽しめるひと品。
アマダイは漢字で書くと「甘鯛」または「尼鯛」。マダイを始めとしたほかのタイよりも身に甘みを感じることから甘鯛と書かれるようになった。また、四角い頭がまるで「ほっかむりした尼さん(尼僧)」のように見えることから尼鯛とも。ちなみに関西でぐじと呼ばれるのは、頭の形がへこんだ魚という意味の「屈頭魚(くずな)」からきているとか。昔の人は特徴をよく捉えたものだ。