麦の誘惑

版絵 岩下加奈子
版絵 岩下加奈子

麦といえば何を思い浮かべるだろう。

黄金色に輝くポエティックな麦畑なのか、はたまたふっくらと焼きあがった香ばしいパン。琥珀色のビール?もしくは冷蔵庫をあけて氷をカラカラ言わせて飲む麦茶でしょうか。

ひとえに「麦」といっても様々な種類があり、パンの原料になる「小麦」やビールは“モルト”と言われる麦芽を原料とするので大半が「大麦」でその中から細かく二条大麦や六条大麦などなど その種類で味がかわってくるんだそう。

私がまず想像したのは「パン」

パン屋さんの前を通るだけで幸せな気分になるものですから、駅からの帰り道に2軒もパン屋さんが並ぶこの街に引っ越してからと言うものの‥誘惑が多いこと多いこと‥。

その昔 パン学校に3ヶ月通ったことがあります。
朝から晩までみっちりと、国産ものからフランス産のブランド小麦粉まで、様々な種類の小麦粉を比較し、塩分などのパーセンテージ、発酵の絶妙な具合でパンを焼き比べる授業の数々。

小麦の特性を生かして配合されたレシピを見て頷く仲間達(大半がパン屋の跡取りや製パン会社勤務の熟練パン職人ばかり)‥の横で呆然と立ち尽くす私。

密かに「私の人生においてパンは食べるものであり、作るものではない。」と結論が出た事を思い出す。要は、パンとは“化学変化”なのだ。

そんな、これっぽっちも理数系ではない私は結局パン屋の道をあきらめ花街道まっしぐらに進みました。だからディスプレイや撮影の仕事で「パンと花」などを組み合わせる時に、何よりテンションが上がるわけです。

花の市場には花材として春先に「若麦」という青々とした花材が出回ります。これは熟す前の麦ですが、そのハッとする碧さがカラフルな花々の脇にちょっと添えられただけで思いもよらぬ鮮烈なアクセントとなります。

版画の加奈子さんはどんな事を思い浮かべながらこの麦を描いたのでしょうか。ひたすら、むぎむぎむぎむぎむぎ‥と呪文のように唱えながら作品を彫ったのかもしれません。

版絵 岩下加奈子
版絵 岩下加奈子

さて、いま小満の頃
碧かった麦畑は美しい黄金色に輝いているでしょう。

そしてこの時期目にするもう一つの旬のものはたわわに実る「ビワ」そして「紅花」。いずれも黄金色に輝く神々しさを感じます。

太陽サンサン、いのち満ち満ちて。
天からの恵みに 虫も鳥も人間も生かされているのですね。

MariquitaTokyo Official Blog

岩尾 真紀 (マリキータ東京フローリスト)

投稿者: 岩尾 真紀 (マリキータ東京フローリスト)

東京を拠点に活動する花屋/フラワーコーディネーター。主に企業のプロモーションや、広告、パーティー、レセプション装花や空間コーディネートを提案。1級フラワー装飾技能士、いけばな草月流師範、グリーンアドバイザー。美味しいもの、美しい物が大好きな人々があつまる"羽根木の森サロン"では定期的にお料理教室×花レッスンの五感で楽しむマリキータレッスンを開催。当サイトでの版絵は岩下加奈子(Mariquita)が担当。