恵比寿さまに抱かれている姿でおなじみのこの魚。桜の咲く季節になると、桜の花のように美しい紅色に染まり、旬を迎えます。正岡子規が、うろこに散りゆく桜花を重ねて詠んだ句の下線部にふさわしい言葉を選びなさい。
俎板に 鱗ちりしく ___
①桜海老
②桜鯛
③桜蛸
④桜鱒
解答:②桜鯛
解説:
「俎板(まないた)に鱗(うろこ)ちりしく桜鯛」情景が鮮やかに浮かびあがる句である。
それにしても、なんと立派な姿か。さすが、味といい、姿といい非のうちどころのない魚の王様、鯛である。
ひとくちに鯛といっても、アマダイ、キンメダイなど、タイと名のつく魚は300種近くある。が、王者の風格にふさわしいのは、なんといってもこのマダイ。
そして、お祝い事といえば、鯛。縄文時代の遺跡から鯛の骨が発掘されたり、平安時代の「延喜式」に朝廷への貢ぎ物として鯛のことが書かれていたり。江戸時代には、鯛が獲れると真っ先に将軍家に献上されたとか。
産地といえば、古くから瀬戸内海や兵庫県近海が知られる。摂津(大阪)湾には、江戸時代、マダイが産卵のために群れをなしてやってきたという。「魚島の鯛」と呼ばれ、大坂人を夢中にさせた。「魚島に桜鯛食わねば浪花人の恥」ともいわれ、井原西鶴の日本永代蔵」には、魚島の鯛を漁期が過ぎても高く売るために、釣り針のかけぐあいを工夫して長く生かすことを夢見る話がでてくる。
明石で水揚げされたものは「明石鯛」として珍重される。明石と淡路島を結ぶ明石海峡大橋。橋の下に広がる海、播磨灘(はりまなだ)は昔から有名なマダイの漁場。なぜなら、播磨灘は、春はイカナゴ―阪神名物“くぎ煮”でおなじみ―の大産卵場となり、、その雑魚目当てにエビやカニが集まる。マダイはこれが大好物。マダイは、顔と向き合うとわかるが、丈夫な歯と発達した下あごをもち、甲殻類でも貝類でもバリバリ噛み砕く。あのうまみは、実はセレブとは思えないたくましい生活力からくるのだ。
マダイは皮と身の間にうまみがあるので、皮に熱湯をかけて皮霜造りにするのもおすすめ。
マダイの旬は2月から5月にかけて。桜前線と同じように南からはじまり、北上する。桜鯛の旬をすぎると産卵後の「麦わら鯛」に。秋にはふたたび「紅葉(もみじ)鯛」として旬を迎える。
大きいほどいいとはいえないマダイ。おいしいサイズの目安として、昔から目の下一尺といわれ、体長40~50センチほどがもっとも美味とされる。だから、大相撲の優勝力士が満面笑みを浮かべて、1メートルはあろうかという特大サイズの鯛の尾の付け根をしっかりつかんで、高く差し上げるポーズに目利きたちは苦笑を隠さない。
柳刃包丁の長さを使って一気に刺身を引く平造り(左)、斜めにうすくそぎ繊維を断ち切り柔らかく仕上がるそぎ造り(右)。桜色に輝く鯛の刺身のひき方を変えることで、皿の上に表情が生まれ、華やぎがいっそう増す。
ところで、鯛という漢字のつくりはなぜ「周」なのだろうか。魚へんの漢字にはどの魚にも諸説あるのが常ながら、「鯛」という漢字の由来説だけは妥当なものと思える。蝦夷(えぞ)地(北海道)をのぞく昔の日本のどこでも(周=あまねく)見ることができ、周(しゅう)年(ねん)(一年中)とれることからといわれる。今でも北海道周辺をのぞき日本の沿岸のどこでもとれる。
マダイは良質のたんぱく質やミネラルを多く含むうえ、カロリーは牛肉、豚肉の半分以下。頭や骨は煮物や潮汁やかぶと煮にすると美味。とくに目の後ろの肉は絶品だ。骨はだしが出ておいしく、余すところなく使える、やはりセレブの名にふさわしい魚である。
2017年は6月25日(日)開催!
第8回日本さかな検定申し込み受付中です!
日本さかな検定(ととけん)の情報はこちらまで