なんでもござれの万能魚

イワシ

胴に輝く黒い斑点。頭でっかちの肥満体。私たちにとってもっとも身近な魚、いわしがこの時季産卵をひかえて丸まると太っています。ふつう、いわしといえば、このマイワシ。料理はもちろん、しらす、飼料、油・・・なんでもござれの万能選手。斑点にちなんで、呼ばれているマイワシの別名を選びなさい。

①ななつぼし
②はかりめ
③もんだい
④やいと 

                   
【解答】①ななつぼし

【解説】
別名「七ツ星」のとおり、体には小さな黒い点がいくつも並んでいるが、たいてい7つより多く、十数個くらい。ほかに、私たちにとってなじみ深いのは、めざしやごまめに向くカタクチイワシに、丸干しに向くウルメイワシ。きびなごやにしんも実はいわしの仲間だ。
種類によって獲れる時期が異なるが、マイワシは脂がのる初夏から秋にかけて美味となる。とくに今の時期、産卵に備えて大きく育ち、栄養をため込む。腹が太っているのは脂がのっている証拠。鮮度は目の黒さと体の斑点がはっきり見えること、体の張りなどで見極める。ウロコは大変落ちやすく、落ちていても鮮度が悪いとはいえないが、ついていればかなり新鮮。新鮮なものは刺身や酢の物、たたきなどに。塩焼き、煮付け、マリネ、つみれなどもおいしい。

脂のりがたっぷり、旨みが強いこの時季のいわしはやわらかく、とろけるよう。
脂のりがたっぷり、旨みが強いこの時季のいわしはやわらかく、とろけるよう。

いわしの煮付けといえば、醤油で炊くのが定番だが、脂もこくもある秋のいわしはできるだけ余計な調味料を使わずに炊くと、いわしがもっている本来の力強さがダイレクトに伝わる。塩でシンプルに炊き上げる「いわしの塩煮」はさっぱり感があるが、脂もおいしく、旨みが口の中にひろがるこの時季おすすめのひと品。

塩でつくると身が光ったように。青魚特有のいわしの臭みは酢を少し加えて煮ると消える。1尾に小さじ半分ほどの塩と、日本酒を加えると旨みがひき立つ
塩でつくると身が光ったように。青魚特有のいわしの臭みは酢を少し加えて煮ると消える。1尾に小さじ半分ほどの塩と、日本酒を加えると旨みがひき立つ
焼き物にすると、脂がポタポタ落ちるくらい非常に脂がのっていて旨みも強い
焼き物にすると、脂がポタポタ落ちるくらい非常に脂がのっていて旨みも強い

青魚特有の臭みをとるには、生姜や梅干しを使うといい。青魚に酸味が加わると、がぜんおいしくなる。

梅干しの酸味がきいた「いわしの梅干し煮」
梅干しの酸味がきいた「いわしの梅干し煮」
いわしの煮付けの定番「しょうゆ煮」
いわしの煮付けの定番「しょうゆ煮」

たくさんある小骨はやわらかで、丸ごと食べられ栄養たっぷり。骨を丈夫にするカルシウムやその吸収を助けるビタミンDが豊富。コレステロールを下げる働きのあるEPAや頭の回転を良くするDHAもたっぷり含む。

いわしは身がやわらかいので、包丁は使わず、手で開くことだ。皮もきれいにとれる。
いわしは身がやわらかいので、包丁は使わず、手で開くことだ。皮もきれいにとれる。

鰯裂くに 指先二本 安房(あわ)育ち
鈴木真砂女(まさじょ)

東京の銀座裏で小料理屋を切り盛りした俳人、故鈴木真砂女さんは魚どころの千葉県鴨川(安房地方)に生まれ、卒寿を過ぎても魚河岸に通い、厨房に立った女将でもあった。包丁がなくても親指の爪と人差し指二本でさばく。殺生の手ざわりに、滋味をいただく感謝も深まろう。

いわしは、私たちの食生活に欠かせない魚であると同時に、「海の米」とも「海の牧草」ともいわれ、世界中の海の生態系を支えるタンパク資源でもある。
大きな群れをつくり回遊している姿は、まるで巨大な一つの魚のようで、その色は海の青と同化する保護色にもなっている。一致団結して集団でカツオやカジキ、マグロなど天敵から身を守る。

イワシ大群

体に白い点が規則的に並んでいるアナゴは関東では②はかりめ(秤目)と呼ばれる。体側面に弓道の的のような特徴的な黒色斑をもつマトウダイは能登地方で③もんだい(紋鯛)と呼ばれる。西洋では、キリストの使者ペテロの指紋が黒い紋として残ったと聖書に記されている。フレンチではペテロの仏語読み“サンピエール(Saint pierre)”と呼ばれ、ポワレやムニエルの定番となる。
クロマグロの代替魚として、愛媛県や和歌山県で完全養殖されるようになり一躍注目を集めるスマは、胸びれの下に灸(きゅう)を思わせる黒い斑紋がある。これにちなみ西日本では④やいとの名がある。

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尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

投稿者: 尾山 雅一 (日本さかな検定代表理事)

平成21年、一般社団法人 日本さかな検定協会を立ち上げる。自ら日本各地をめぐり、検定の副読本執筆まで手がける魚食文化発信のエキスパート。 日本さかな検定(愛称:ととけん)とは、近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組み。 2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年には全国12会場まで拡大。小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出。今年は6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡ほかの各会場で開催予定。